「日本の詫び寂び」「色彩の美」に触れた京都老舗旅館


こんにちは、色彩活用研究所iro-laboの岡山です。

寒かった冬も去り春を感じる頃となりました。
そんな中、先日京都を訪れました。宿は創業300年の老舗旅館です。

京都の中心部に位置するこの旅館ですが、一歩足を踏み入れると、
そこはおとぎ話の世界観、異次元に訪れたような感覚、しつらえ、
おもてなしは伝統ある中にも緊張感を与えないどこか懐かしく、
ゆったりできる居心地の良さを感じられる空間で満たされていました。

土塗りの黄土色の壁と弁柄に墨をくわえて色づけた格子、いぶし銀の日本瓦の屋根。
これらは京都で定められた「京の景観ガイドライン」に準ずるもので、
下記の内容が記されています。

「歴史的町並みと調和する色彩、木、漆喰、日本瓦、土塗壁等の自然素材に使用されている
YR(黄赤)、Y(黄)、N(無彩色)の色相で、低彩度かつ中明度の色彩を基本とし、
低明度のN(無彩色)系を除く。」



京都の歴史、景観を守り、未来に引き継いでいくためにはそれ相応の努力が
大切なのだと思われ、だからこそいつ訪れても変わらない京都が出迎えてくれるのでしょう。

さて、旅館に進んでみましょう。
水打ちされた石貼りの玄関、薄茶色の京壁、格子窓、江戸時代の粋として
微妙な茶や灰色を楽しんだ四十八茶百鼠のごとく、雅よりも粋なお出迎えでした。
館内は決して広い敷地ではありませんが、全室お庭を眺められる様に工夫され、
そのため迷路のような設計になっています。
薄暗い館内にはひと月ごとに施される調度品の数々、受け継がれた歴史が感じられます。



そしてお部屋の中に・・・ 書斎、続く和室、そしてこの部屋の主役ともいうべく
艶紅色の漆塗の大座卓が鎮座して待っていてくれました。
それまでの控えめな配色から打って変わって真っ赤な色なのです!
かなりの存在感に目が奪われてしまいます。鳥居や神社などで災厄を防ぐといわれる赤を
目にしますが、「アカ」は太陽によって一日がアケル「アカ」になったそうで、
人類が初めて色として認識した色。
生きていく根源「陽、火、血」の赤は最も身近な神聖な色なのです。

そんな風格ある赤い座卓がある座敷から坪庭に目を向けると、
苔色とはこの色といわんばかりの黄緑色をした苔やシダが雪見障子越しに
赤いテーブルとの赤と緑の補色のコントラストでお互いをさらに美しく映し出しているのでした。
歴史ある日本家屋の旅館は、まさに自然と住居が共存して育まれています。

さらにいたるところでの競演は続きます。
グラスに添えられた常盤色のコースター、竹の器、赤を見続けていると眼は疲れます。
補色の緑があることで眼の疲れは軽減されます。
旅館の方のお話によると、色選びは当主の方の目利きで、かつ自然の色を選んでいるとのこと。
当主の感性で選び抜かれた色も伝統を受け継ぐものですが、それらを最も美しく見せる
配色となって選ばれ、彩られていました。この歴史ある空間に身を置くと、
隅々まで行き届いたもてなしに、ただただ溜息ばかりです。



近年、京都にもいくつかの外資系ホテルが参入してきているようで、
快適さからいくとホテルのほうが好まれることもあるでしょう。
老舗旅館の魅力は快適さだけではなく、それまで培われてきた歴史を肌で感じ、
自然界から施された色彩を眼にして、日常から解き放たれた時間やおもてなしで
心身が癒される、そんな空間なのでしょう。
また訪れて日本の詫び寂び、色彩の美に触れたいと願うばかりです。


©2004-2019/色彩活用研究所 ※無断転写は固くお断りいたします。